あの日、ボクはまだ小学校低学年でした。
夏休みのある日、小名浜にある親戚の家に行くために午前中のバスに乗った時のことです。
定刻通りに来たバスに乗り込むと、乗客は約10人ぐらい。
イス席にすれば1/3ほどの人数がいました。
ボクはバスの昇降口から乗り込むと、すぐ前の空いていた席に何とはなしに座りました。
目的地の停留所までは、ものの15分ほどの距離ですが、それでもまだ小学生の子供だったボクにとって、一人でバスに乗るのはそこそこの冒険であり、降りるべき停留所の名前を忘れないように必死に反復していたのを憶えています。
しかしそんな緊張も長続きせず、ちょっと余裕がでてきた頃、突然、ほんとに突然、後ろに座っていたドカジャンのオジさんが、ボクに話しかけてきました。
後ろに人がいたなんて思っていなかったんで、驚いたのなんのって。
ただでさえ真夏のクソ暑い時期、ドカジャンを着て異様なオーラを漂わせるオッチャン。
ふと気付くと、1/3の乗客は全てバスの前方に座っており、後方にいるのはこのオッチャンと、なんとも頼りなげなボクの二人だけ。
オッチャンはボクに話しかけます。
「な、オッチャン、酒臭ぇべ。」
「・・・?」
「オッチャン、昔、腰ぶっちめて痛くてしゃあねんだ。」
「んだからいっつも酒飲んでっから臭ぇんだ。」
「酒臭くてすまねぇなぁ。」
「あ、いっ、いえ・・・」
なんとも返事のしようがありません。
この後、オッチャンは次の停留所で片足を引きずりながら降りていきました。
あれから40年。
ふと、あのオッチャン、もしかしたらオレ自身じゃなかったのか?
なんて思えてしまうのです。
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